クレオソートについて

 如月先生のブログが発端ですが、一般的に「正露丸」として知られている錠剤の主成分である「クレオソート」について、少し調べてみました。

 日本に出回っている医薬品を全て収録した「日本医薬品集2005年版(注:これに載っていないのは海外の薬品か、あるいは薬品として国内で認可されていないもの)」でクレオソートの記載を調べると、
 「歯科用鎮痛鎮静剤」としてのみ記載されており、適応は「う窩及び根管の消毒。歯髄炎の鎮痛・鎮静」。問題になったとおり、「歯科用にだけ使用する」「軟組織に対し、局所作用を現すおそれがあるので、口腔粘膜に付着させないように配慮する」「軟組織に付着した場合は直ちに拭き取り、エタノールグリセリン、植物油で清拭するか、または大量の水で洗うなど適切な処置を行う」などの記載があります。劇薬指定です。

#…これだけで判断すると、とても内服用とは思えないような…。

 薬物関係の本も見てみました。
 「現代の薬理学:S63年改訂…クレオソート。ブナの木を乾留して得られるタール油から作られる。主成分はguaiacol, methyl-guaiacol等のフェノール誘導体である。防腐作用はフェノールに劣るが、局所刺激作用と毒性は弱い。局所麻酔作用を持つため、歯科で亜ヒ酸剤に添加し、または綿球に浸して齲窩(うか)に充填する。また気管支分泌を促進するので気管支拡張症等に吸入させることがある」

#改訂が古いので、気管支についての記載は眉唾です。ただ、こういった記載が校正されずに、重版をかさねているのはどうかと思いますが。

 また、様々な本に、フェノール誘導体による発ガン性、毒性についての記載があります。「フェノール類の毒作用は、細胞膜の破壊、蛋白凝固による腐食作用と中枢作用である。(中略)局所麻酔作用があるので、皮膚、粘膜に付いた時に痛みを感ぜず、腐食が進行してから痛みに気づくことがある。(中略)飲むと、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの症状のほか、喉頭蓋・声門・食道の浮腫、食道・胃のびらんがみられる。(中毒百科、2001年改訂、内藤裕史著)」
 原料のタールが、人為的な発ガン物質として初めて用いられた有名なものですから、まあ取り沙汰されないほうがおかしいといえばおかしいかも…。

 主成分であるグアイアコールについては、これまた芳しくない記載が目立ちます。
「グアイアコールには、フェノールの約1/3の毒性とフェノールと同様の薬理学的性質があり、筋力低下、心血管虚脱、血管運動中枢麻痺を起こす。医療的には毒性量が容易に皮膚吸収され、皮膚への特別の刺激性はないが、表皮剥離部に長期接触すると傷害がおこる。(中略)ヒトに投与すると、刺激、嘔吐を伴う灼熱感、出血性下痢が発生する。低用量反復投与で耐性ができる。去痰薬として使用すると高用量で心血管虚脱が、臨床投与量で消化器への刺激がおこることがある。(中略)グアイアコールの衛生基準は設定されていない。眼や呼吸器系の刺激となる蒸気濃度は避けるべきである。産業上の利用は局所との接触と経口摂取を避けることが重要である(化学物質毒性ハンドブック:平成11年発行、内藤裕史、横手規子監訳)」

#全文ではないので少し偏っているかもしれませんが、最後にはっきりと「経口摂取を避けることが重要」と記載されてしまっています。

(まとめ)
 調べ始めた当初は、「正露丸の発売元とそれに対する団体の、各々に対して有効なデータを示し合っているだけの泥仕合」のような印象を受けていたのですが、詳しく薬剤を調べていくうちに、フェノール誘導体の毒性に関する記載ばかりが目に付くようになりました。
 結果、正露丸が効くのは粘膜への局所麻酔効果であることは間違いないようです。ですが、表面的に出てくる止痢作用だけを見ているわけにはいかないでしょう。確かに低用量で内服している分にはあまり問題が起こらないのかもしれませんが、それにしても不安の残る結果でした。